日々、僕はマッチを擦って、ろうそくを灯した。
余った火を線香に移すこともあるし、ろうそくの火を使うこともある。
新たなマッチを擦って、 直接 、線香に火を渡すこともある。
そしてマッチの火を眺め、軸木から漏れ出る白い煙の緩やかな動きと行方を追う。
それは僕にとって習慣にも似た動作だが、 慣れることがあってはならない、短い特別な時間なのである。
そうやって火は受け継がれていく。時間と同じように。 記憶と同じように。
片面は「神戸シーサイドレーン」でもう片面は「甲東園ボウル」と印刷されたマッチ箱。住所から推測すると「神戸シーサイドレーン」 は現在の神戸ハーバーランド辺りになる。「甲東園ボウル」は阪今津線「甲東園」の東、武庫川河川敷近くになる。
マッチの背の部分には「ストライク」のマークが3つ並ぶ。10フレームだろうか。
どちらのボウリング場も僕の記憶にはない。
「甲東園ボウル」のマッチ箱に印刷されている”AMF82-82″とはかつて伊藤忠AMFが輸入販売を行っていた自動ピンセッターマシンの型番。
遠い昔、レーンの裏側で「ピンボーイ」と呼ばれる人たちがボウリングのピンを立てていた。自動ピンセッターマシンの登場で、ピンボーイの時代が終わった。