手元にあるマッチ箱には「TOR ROAD KOBE」と「KOSHIEN」、ちょっと横に長いブックマッチは「KOBE TORROAD」と「HANKYU ROKKO」と「KOSHIEN GUCHI」と印刷さている。
大学生の頃の僕は女のコに連れられて、トアロードにある喫茶「ん」に何度か足を運んだ。
いつか再び行こうと思いながら、僕がやっと喫茶「ん」を訪れたのはやや暖かな2015年11月の第1週目だった。
僕は窓際のソファに座り、ぶどうジュースを注文した。ぶどうジュースが運ばれてきた折りに、マッチについて訊ねた。こういうことを訊ねるには静かな空間を破壊するくらいの試みを僕は必要とする。注文とは異なる。
阪神淡路大震災後、トアロード店は北野坂の中山手通に移転し、2012年頃にオーナーが代わったそうだ。
毎時30分に低い音を1つ鳴らす掛け時計は今もあって、それを懐かしく思う。
好きだったけれど、どんな会話をしていいのかわからない僕と女のコとの気まずい時間の流れを思い出す。
今じゃ、考えられないけれど、ね。
僕はマガジンラックにある雑誌に手を伸ばす。
マガジンハウスから出版されている隔月刊版「ku:nel(クウネル)」の2011年7月号「No.50」に喫茶「ん」が載ってる。
喫茶「ん」は1970(昭和45)年に創業。今はもうマッチはないそうです。