陽射しは強く、そして眩しく、梅雨という季節の中を前進していることを忘れるくらい暑い。
夕刻まで空には灰色の雲は姿を見せなかったのだけれど、明日は傘の出番となるのだろうか?
さて、昨年の春の頃だと思う。
僕がJR垂水駅西口から南、国道2号線を渡る横断歩道で数人の見知らぬ人たちと信号待ちをしていると、おそらくは20歳代前半の女性(僕はかなりの高い頻度で女性の年齢の推定を間違う)が道を訊ねてきた。
2012年1月2日のblogにも書いたのだけれど、僕は頻繁に道を訊ねられる。
しかもそういうときに限って、インナーイヤー・タイプのヘッドフォンや耳掛けタイプのヘッドフォンをして、音楽を聴いている。
そんなに僕と話がしたいのかな?
いや、話しかけても心配がなさそうなくらい無機質なのかもしれない。
きっとそこにあるのは携帯電話を自宅に忘れ、随分と見かけなくなった公衆電話を偶然見つけたくらいの感覚、あるいは街中で銀行の現金自動預け払い機を見つけたくらいの認識なのかもしれない。そこまで目立って存在を主張しているわけでもないのだけれど…。
とにかく、そのときもいままでと同じようにごく自然に話しかけられた。
「ミシンを取り扱っている店を知りませんか?」と彼女は言った。「”ミシン”と大きく書かれているので、すぐにわかるって言われたんですが」
「ミシンのお店ですか?」と僕は耳掛けタイプのヘッドフォンを外しながら、聞き返した。
「駅前だと言ってたんですが…」彼女は少し急いでいるふうだった。
国道2号線を渡るには交通量の多いせいで、信号待ちの時間は長く、横断する時間は30秒程度しかないので、赤に変わったばかりの歩行者用に設けられた信号はしばらく変わることがない。
「ジャノメっていう看板がある、と言っていました」と彼女は付け加えた。
「駅前」「ミシン」「看板」「すぐにわかる」というキーワードで検索した、浅い部分に残る記憶が僕に「それなら、駅の南側でなく、北側にミシンを取り扱ってる店がありますよ」と答えさせる。「あっ、ジャノメだったかな、ブラザーだったかもしれないな。シンガーかもしれません。でもなんらかの看板があることはあります。駅の北側にある横断歩道を渡って、すぐに右に曲がってください。とにかく、ミシンを取り扱っているお店があります」
彼女はそれを聞くと、僕に丁寧に御礼を言って、足早に垂水駅のほうに引き返した。
ごめんね、その後、横断歩道をわたってから、JR垂水駅東口から南に下ったところ、国道2号線沿いに「ジャノメミシン」と大きく看板を持つ店があることを恥ずかしくなるくらいに思い出したんだ。
ほんとうに、ごめんね。
どちらの店に行きたかったのか、無事、本来の目的地(おそらく、ジャノメミシンのお店)に指定された時間に着くことができていればうれしいのだけれど。
垂水にはもう昔のような海岸と砂浜はない。