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The Balanescu Quartet(バラネスク・カルテット)/Possessed

The Balanescu Quartet(バラネスク・カルテット)/Possessed

1994年4月23日(土曜日)、僕は神戸ポートアイランドにあるジーベックホール(XEBEC HALL)に向かう。開場18:00、開演19:00の「The Balanescu Quartet(バラネスク・カルテット)」のコンサートを聴くために。

“ジャンルを横断するしなやかな感性”
“弦楽四重奏の可能性に挑戦する THE BALANESCU QUARTET CONCERT IN KOBE”

「当日券」の入場券を買った際にもらったパンフレットの表側にそのように書かれている。

パンフレットとともにワードプロセッサーと画像の切り貼りで作られた簡単な「公演プログラム」をもらう。
神戸公演の前々日と前日である4月21日(木曜日)、22日(金曜日)に渋谷の「シアターコクーン(Theater Cocoon)」でも同様に内容でコンサートが行われている。

弦楽四重奏のコンサートなんて、僕はその時が初めてだったし、いや、バラネスク・カルテットの音楽を聴くことさえ初めてだったし、この時は他に誰も誘うことができなかった(音楽的なベクトルを僕と同じくする人が周りにいなかった)上に、自分の好きな席に座れるという状況に、おそらく周りの人の目のは硬い表情で席に着いている僕が映っていたことだと思う。

僕はただ「Kraftwerk(クラフトワーク)」のカヴァー曲が目当てだった。

開演後、客席からみんながスタンディングすることはなかったが、これは現代音楽のコンサートではなく、ロックのライブのようなサウンドが支配する世界に僕たちは閉じ込められた。

前半は、「ジョン・ルーリー」「ロバート・モラン」「ケヴィン・ヴォラン」「マイケル・ナイマン」といった現代音楽の作家が手がけた曲を弦楽四重奏用にアレンジした演奏が続き、15分の休憩をはさんで、バラネスク・カルテット自身の作曲によるアルバム「Luminitza(ルミニッツァ)」の収録された曲と1992年のミュート・レコードからリリースされた「Possessed」から「Kraftwerk(クラフトワーク)」のカヴァーが演奏される。

“音楽理論を学ばない人ともコミュニケートできる演奏をしたい。
僕はそういう新しい音楽はただひとつしかないと信じている。
単に演奏するだけでなく、何かを創造していくこと・・・・・・
従来の枠組みを越えた広い視野を持ち、ジャズのような即興や、
身体の動きと直接結びついた音楽のように、
人間の全て、肉体、感情、そして知性をも捲き込む演奏をするような。”

リーダーのアレクサンダー・バラネスクはこのコンサートのためにこのような言葉をパンフレットの裏面に載せている。

演奏する彼らと僕たち観客との物理的距離は指で輪ゴムを飛ばせば当たるくらい近く、僕たちと彼らは確かにコミュニケートした。

彼らの魅力はCDに窮屈そうに閉じ込められた音源ではなく、ライブ(もう「コンサート」とは表現できない)にある。

画像に写っているCDは

1. ROBOTS
2. MODEL
3. AUTOBAHN
4. COMPUTER LOVE
5. POCKET CALCULATOR
6. POSSESSED
7. WANT ME
8. NO TIME BEFORE TIME
9. HANGING UPSIDE DOWN

の計9曲が収録されている「Possessed」。
「1」 から「5」は「クラフトワーク」、「9」は「デヴィッド・ボウイ」、「6」から「8」は「アレキサンダー・バラネスク」のオリジナル曲。

僕は大型トラック級のサウンドを展開したこのライブを体験した後に、彼らのCDを購入しはじめるわけだけれど、CDに収められたサウンドは軽自動車くらいのエネルギーしか感じられない。

それはCDという媒体に彼らのサウンドが収まりきらないだけでなく、「肉体、感情、そして知性をも捲き込む演奏」を可能とする濃厚さや偶然性が欠け、「コミュニケート」の完結がなされていないからではないだろうか?
でも、今のところ、彼らのアルバムの中ではこの「Possessed」を僕は一番気に入っている。