2004年に岩波書店から「岩波ジュニア新書」として刊行された島田誠と森栗茂一の2人による「カラー版 神戸 震災をこえてきた街ガイド」の表紙を見たとき、そこに用いられている「画」が川西英の木版画作品であることに気づいた僕は図書館でこの本を借りた。
各章の「扉」に川西英の木版画ポスターカラーによる描画が用いられている。
1章:神戸沖、2章:兵庫港、3章:メリケン波止場、4章:県庁、5章:酒造り(灘五郷)、6章:西新開地、という具合に。
三宮、元町、神戸、兵庫、新開地、灘、東灘、長田、鷹取を散歩するように移動し、それぞれの街にどのような歴史や歴史的建造物があり、それらが1995年の阪神・淡路大震災でいかにして失われ、いかなる理由で失われることがなかったのか、そしてどんな方法で復興が行われてきたのかを現地を視察するという手法で書かれた新書の名前通り「ジュニア」向けの書籍。
だからといって、内容に手抜きがあるわけではなく、若干の簡易で簡潔な表現で書かれた神戸のガイドブックであるといえる。
随所に地図が載っているが、手元に神戸市の地図を備えて読むと理解しやすい。
神戸を愛する2人の著者がまとめたこの書籍にはその神戸への愛が満ちていることが以下に引用した文を読めばわかる。
“神戸は表面的には何事もなかったようにみごとに復旧しました。しかし、いたるところにある駐車場や空き地には、かつては建物があり、人の営みのドラマがあったのです”
“歴史的文化財や記憶を壊すのは、戦争や震災だけではありあません。経済効果優先の中で壊されてしまい、歴史がもつ都市の品格が失われて、どこにでもある近代的ビルが立ち並ぶ町となっていくのは、残念なことです”。私たちは、美しい山、森、川、歴史を刻む場所、建物などを、あまりに無神経に壊して、近代的なもの、効率的なものに置き換えてきました。それは、土地固有の個性を画一的なものに還元していくことでもあります。人間の生存のためにやむをえないことがあったかどうか、神戸だけでなく、みなさんの住む町や村を考える視点として、いつも立ちもどっていただきたいと思います”
2004年に書かれたこの本を2012年の今読んで、内容にホコリをかぶったようなモノを感じないのは、寂しいことだけれども「どれほど神戸が復興していないか」を伝えている。
特にお薦めするような本ではないが、神戸を訪れる際の観光ガイドのように読んでもらいたい、と僕は思う。
本書で使われている川西英の木版画「神戸百景」に関しては以下のサイトを参考にして欲しい。
「神戸百景を歩く/神戸が生んだ木版画家・川西英さんの足跡をたどる旅」の公式blogこちらにあります(clickすると別ページで表示されます)。
* blog内、全て敬称略です。
* 2012年1月21日、桃太郎さんのご指摘により「木版画」という表現・記述に修正を加えました。